飛行船と飛行船の旅
その過去と現在、未来
著者、エングバーディングは海軍造船技師である。
この本の発行された1926年は、第一次世界大戦の戦時賠償の一環としてドイツ海軍の飛行船基地において破壊活動のために失われた飛行船の代船として新たに建造された「ZRⅢ(ツェッペリン製造番号:LZ126、米海軍に引き渡しの後、「ロサンゼルス」と命名)」をレークハーストまで引き渡し飛行を終えた2年後である。
エッケナー博士達は大型飛行船建造のため「ツェッペリン・エッケナー義捐金」で資金獲得のためドイツ国内を百回も講演してまわっていた。
(この資金で「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」が建造されたのは1928年、「LZ129:ヒンデンブルク」は1936年に建造されている。)
第一次大戦で飛行船は、ツェッペエリン社製飛行船数十隻、シュッテ・ランツ飛行船も二十隻参戦しているが、飛行機の性能が急速に向上したため飛行船の空襲はあまり戦果を上げることが出来なかった。
しかし、この実戦投入で飛行船の設計・運用面に大きな進展がもたらされ、飛行船は手探りの状況から実用化の段階に到達した。
本書は大きくA,B,Cの3部構成となっている。
Aは飛行船の理論と実際、その建造と利用に必要な設備、
Bは飛行船の利用、
Cはドイツの飛行船政策と未来の商用飛行船
である。
Aはさらに3つの部分に分けられている。
Ⅰ.は飛行船、
Ⅱ.は建造所、建造と試運転
Ⅲ.は飛行船空港
である。
Ⅰ.の飛行船はさらに12項目にわたって理論・実際に飛行船について解説されている。 この本では9ページを使ってその記載内容を紹介しているので「目次」として紹介する。 一般に硬式飛行船といえば同義語のようにツェッペリンを思い浮かべるが、シュッテ教授の飛行船は、いまでは当たり前になっている流線型船体・十字尾翼のほか、船体構造方式に大圏構造と言われる方式を提言したことで硬式飛行船の開発に大きな功績を残している。 大圏構造は実際に「SL1」に適用しており、イギリスのウォリス教授がヴィッカース製爆撃機に採用している。
この本の特色はシュッテ・ランツ飛行船を写真とデータで豊富に紹介している点である。 特に「アトランティーク」と名付けられた渡洋旅客飛行船について外観のみならず、ラウンジ・ダイニング・乗客用船室の仕様をスケッチで示してくれている点は特筆に値する。シュッテ・ランツ飛行船シルエット一覧表によれば、この飛行船の完成時期を1920年としている。
勿論、当時最新最大の「ZRⅢ(LZ126:ロサンゼルス)」については外観・内装の写真、折込図面などのほか、母船「パトカ」による運用状況も紹介されている。
パーセバルの軟式飛行船、「LZ1」から「LZ126」に至るプロペラブレードの変遷、水素・ヘリウム工場の写真など貴重な付図も多い。
時間をかけて丹念に読んで行こうと思っている。