LZ127Profile

陸を越え、海を越え

SanFrancisco

Hugo Eckener著 "Im Luftschiff über Länder und Meere"(続き)

世界周航(10)

8月25日の午後4時にアメリカ海岸が視野に入ってきた。5時過ぎ、陸岸から陸岸まで67時間の飛行の後にサンフランシスコ湾のゴールデンゲートの上を通過した。我々は誇るべき記録を作ったのである。

船上ではサンフランシスコ湾の美しさが様々な言葉で語られていた。「ゴールデンゲート」の命名に特に理由はなかった。

高度500mで陸に向かって舵を取り、そこで信じられない光景を見て非常に感動し、涙が出たほどであった。海に沈みかけている夕陽は、海や陸やまわりの山々を暖かい金色の光で満たし、素晴らしい絵を見せていた。

そして、この美しい街が我々に用意してくれた歓迎は壮麗としか表現出来なかった。飛行機の編隊が我々を迎えてくれ、ゴールデンゲートを通過するまで随伴飛行していた。港に在泊中の船舶は満船飾で汽笛を鳴らして歓迎し、街中の数千台の自動車はそれにあわせてクラクションを鳴らした。

この熱狂の歓迎を体感するために両目、両耳が必要であった。何度もこのような歓迎を経験したが、雲と霧の中の長く単調な飛行のあとに受けたこの熱く美しい歓迎ばかりは私の心に忘れがたいものとして刻み込まれている。

この街の上空を15分ほど巡っただけで飛行を続けた。着陸地点はロサンゼルスであり、そこからほぼ720km南にあった。

太平洋横断記録を残すためだけにサンフランシスコに向かったのである。もし、ロサンゼルスに直行していたら1時間だけ余計にかかり、午後7時に着陸することが出来た筈であった。そして今、そこに向かうために数時間かけることになった。

エンジンを絞ってゆっくり飛行するその沿岸の景観は魅力的であったが、2時間もすると闇に紛れてしまった。午後11時に、この飛行の後援者であるウィリアム・ランドルフ・ハースト氏の豪邸のある場所に近付いていた。見渡したが驚いたことにすべては暗闇に包まれていた。誰も起きているとは思わなかった。

しかし突然、数百の照明が点灯され、大きな屋敷と邸内の沢山の小さな小屋が輝く光に浮き上がった。それは特別な、忘れられない驚きであった。ハースト氏に無線で感謝のメッセージを届けた。

午前1時過ぎ、ロサンゼルス上空に到着したが、海軍当局と午前5時以前には着陸しないと申し合わせていた。それで3~4時間、上空で旋回しながら時を待ち、乗客と乗員を休ませた。

5時の着陸は次の理由で非常に拙い結果となった。地上の空気層は夜のあいだに地表からの冷気と山岳から吹き下ろす冷気で冷え切っていた。これは何れも当地では判りきった現象であった。

高度500mで飛来した飛行船のガス温は25℃であるのに地表の気温は19℃しかなかった。この大きさの飛行船では、気温が1℃下がると浮力は約300kg増加する。従って、飛行船はこの地表の冷たい空気層に降りると1800kg軽くなった。

低く飛びながらガス温を地表層の気温まで下げようと試みたが、それには非常に長時間かかる。ガス温を気温と同じになるまで下げるには数時間が必要であった。

それで、グランドクルーが飛行船を地表に引き下ろすことが出来るように更に1000立方mのガスを操作弁から排出する決心をしなければならなかった。

このことによって、その日の夕刻 再び離陸することが非常に難しくなった。

世界周航(11)

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