(表紙)
『望まなければならぬ
信じなければならぬ
そうすれば実現出来る!』
これが、「不可能」という言葉に耳を貸さぬツェッペリン伯爵の信念であった。
彼の飛行船に関する最初の構想は1873年に由来する。
1887年にツェッペリンはヴュルテンブルクのカール王に操縦可能な飛行船の建白書を提示した。その建白書には、飛行船が克服すべき課題に対する基本的な見解が含まれていた。
1894年に、彼の硬式飛行船の構造デザインが皇帝の召集した委員会に提出されたが、そこでは再三却下された。
ツェッペリン伯爵は一年後、請願書を公に下が、功を奏さなかった。
1896年に、初めてこの件でドイツ技術者協会が喚問され、熱心な討議を行った際に、伯爵はドイツ工業界の2、3の支援者に資金提供を求めて、資本金80万マルクで株式会社「飛行船航行振興会社」を創設することに成功した。1899年の年央、最初の飛行船がマンツェル近郊の水上の木造格納庫で建造された。
その飛行船は長さ128メートル、直径11.7メートルで、ガス容量は11300立方メートルであった(図1、3)。
[第1図:建造中のLZ1(1899年)]
2つのゴンドラに、それぞれ14馬力の大きなはずみ車付きのダイムラー・ベンツ製水冷エンジンが設置されていた。
[第2図:LZ1の14馬力ダイムラー・エンジン]
それぞれのエンジンから2本の長いカルダン軸によって、合計4つのアルミニューム製プロペラに動力が伝達される。
その短く幅広い翼は船舶のスクリューを想起させる。カルダン軸は図1.で明瞭に見て取ることが出来る。
ツェッペリン飛行船は、その最初の構想の主要な特徴が今日まで保持されているという発明史上稀なケースであることは特筆すべきことである。すなわち、軽金属製の硬式骨組み、ガス嚢内部の互いに独立したガス室の分割、骨組みに固定されたゴンドラ内の独立した機械装置、そして飛行船の船体下部のこれらを接続する通路である。
1900年7月2日、夕刻8時に最初の上昇を開始し、18分で終了した。「ツェッペリン」は、他の多くの試験飛行がそうであるようにさまざまな障碍に見舞われたが、それでもこれは成功したと言える。
[第3図:マンツェルの水上格納庫内のLZ1(1900年)]
第4図は、5人の搭乗者と350キログラムのバラストを載せて行われた最初の試験飛行に浮揚したときの原板である。
[第4図:1900年7月2日、LZ1最初の飛翔]
注目すべきは、この飛行船では舵面によってではなく、可動式の移動分銅を用いて水平に重心を移動させることによって昇降舵の働きをさせたことである。最初の試行では導体と舵の改善が不可欠であることが判った。
次いで、同年10月17日と24日に浮揚試験が実施されたが、この航行のために資金を使い切ったため、会社は解散となった。
歴史的に見て、注目すべきことはツェッペリン伯爵が、最初のデザインを、多くの個別の乗物を一緒に連結して「操縦可能な航空列車」として構成し、それに対して1895年8月31日付けで、一風変わった「スポーツ」の区分で特許が与えられたことである。
この構想の模型が、フリードリッヒスハーフェンのツェッペリン博物館にある。
[第5図:各種プロペラ形状の研究]
仕事の遂行と、特にそのための資金獲得のためのツェッペリン伯爵の新たな闘いが始まった。実行によって疑いもない成功を勝ち得たが、結果に対する評価はさまざまであった。専門家たちは今までになく控えめであった。ドイツ技術者協会はツェッペリン伯爵の救援に乗り出すこともなく、伯爵が多くの新聞に出した「飛行船航行を救援するための緊急呼び出し」も成果をもたらさなかった。
やっと、ヴュルテンブルクのヴィルヘルム王が伯爵に富くじを許可する支援を果たし、ツェッペリン伯爵に対し相当な部分、自らの資金を投下して、ようやく1904年に新造飛行船の建造が始まり、1905年11月に最初の飛翔が行われた(第6図)。
[第6図:LZ2(1905年)]
当時、まだ空力学的知識と経験が乏しかったので、第5図に示すように異なる種類のプロペラ形状が試みられた。
第1図と第70~84図(「LZ-127」)を比較してみると「LZ1」のアルミニューム桁が格子桁に鋲設され、ベルト部と横桁でT字型を構成していることがわかる。この桁の側面方向の剛さは、当然ながら弱い。
すでに「LZ2」から、ツェッペリン伯爵の飛行船の基本的構造は、3本の部材で立体的な枠組みを構成するようにデザインされ、その卓越した「三角桁」の構造方式は今日まで引き継がれている。
縦通材とともにツェッペリン建造様式の特徴である横断リングも同様に三角桁で接合されている。
さらに注目すべき点は、大戦前の飛行船は全体に円筒形をなしており、従って主船体の直径が同じである。円筒形は、建造原価が安く抑えられる反面、いわゆる水滴型と較べると空力学的にそれほど有利ではない。