「ツェッペリン世界一周飛行(原題:Zeppelin-Weltfahrten)」というアルバムがある。
265枚のタバコカードを貼り付けた、横34cm、縦24cmの横型のアルバムである。
タバコカードというのは、我が国で2008年に未成年者の喫煙防止のために導入された成人識別ICカード「タスポ」のことではない。
紙巻きタバコのパッケージが脆弱だったために補強のために厚紙が入れられたのが始まりだと言われている。
初めは白紙であったが、これに数行の広告文を印刷するようになりやがて絵や写真が印刷されるようになり、これを収集することが流行ることになった。
アルバムになっているツェッペリン飛行船のタバコカードは Sanct Georg の「CLUB」と「LIGA」で、アルバムのはじめに1ページ、ニコチン含有量のグラフのついた説明がある。
写真のサイズは 6cm×4.4cm(縁を取ると 5.5cm×3.8cm)と小さいものである。
このアルバムは、最初「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」の世界周航を記念して発行された。
1933年の発行であるから「LZ129:ヒンデンブルク」はまだ建造中である。
265枚のうち、1枚は世界周航記念コインの金属箔でそのほかは写真である。
写真の前に、技術的な解説を含む飛行機や飛行船、それに気球やオートジャイロの原理の説明を含めた歴史が掲載されている。
写真は大戦前が34枚、世界大戦中18枚、大戦後17枚、「LZ127:技術」が17枚、「LZ127:設備」16枚、「LZ127:運航」21枚、「LZ126:納入」5枚、「LZ127:アメリカ飛行」が18枚、スペイン飛行(1929年)が6枚、世界周航が24枚、イギリス飛行が8枚、南米飛行が19枚、モスクワ飛行が5枚、エジプト飛行が27枚、ドイツ国内が29枚である。
タバコカードのほかに大版(16cm×11cm)で別売されており、私の持っているものにも二十数枚添附されている。
アルバムには主要各飛行の航跡や一般配置図やアコモデーションプランも掲載されており、評判が良かったと見えて第2集が発行された。
これには目次が付いており、軍用飛行船が12枚、北極飛行が18枚、スカンジナビア飛行が18枚、オランダ飛行が9枚、バルカン飛行が3枚、オリエント飛行が6枚、スイス飛行が24枚、オーストリア飛行が12枚、スペイン飛行(1930年)が12枚、南米飛行(1931/32年)が12枚、ローマ飛行(1933年)が12枚、ドイツ国内が18枚の156枚が収容されている。
第2集には時代の反映か、航空大臣ゲーリングの写真やナチによって指定された垂直尾翼のデザインも載っている。
飛行船研究家クラインハインスの参考文献には第1部と第2部が取りあげられているが、第1部は写真集としてのほか技術的記載内容が評価されており、重要度についても微妙に評価に差をつけているようである。
第1部の末尾には、文章についてはフリードリッヒスハーフェンのツェッペリン飛行船製造社と協同で作成したとあるので信頼性はそれなりのものだと思う。
なお、第3部はLZ129:ヒンデンブルクが対象であるが発行直後にレークハーストの事故が起きて発売中止になり、第4部はLZ130:グラーフ・ツェッペリン(Ⅱ)とともに殆ど市場に出回っていないので入手は非常に難しいという。
私は2008年に東京のF氏を訪ねたとき見せて貰ったことがある。
前置きが長くなったが、そのツェッペリン世界一周飛行アルバムの「戦後の飛行船」の項の最初にユトランド沖海戦でドイツの高海艦隊を率いてイギリス海軍の主力と戦ったシェーア提督は、「(前略)この大戦で我々にとって航空機は揺籃期であったので飛行船は欠くことが出来なかった。遠方の眺望、高速、高い信頼性により、水上艦艇による偵察と対比して飛行船は重要な手段であった。(後略)」と述べている。
戦史では飛行船隊の働きは何も評価されていないようであるが、エッケナー博士はその著書で「(前略)ツェッペリンは戦争開始後最初の2~3年、非常に有効な性能改善を遂げていた。非常に優秀な将校に率いられた飛行船が、北海全域を偵察・監視し、その結果大幅に巡洋艦戦隊を駆逐した。ユットランド海戦では、最初は天候に妨げられたが、飛行船が高海艦隊司令長官に戦況を報告することが出来、その情報によって重大な決断が下され、ドイツ海軍は多大な損害を免れたことは間違いないと思っている。彼らは強大な敵艦隊の接近を知らせたのである。(後略)」と述懐している。
写真は、そのタバコカードの36番「1915年海上偵察中の海軍飛行船L11(LZ41)」である。
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