LZ127Profile

「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

Nebel_1

第二、第三区間

太平洋上航行

船も、生き物も見えず

たっぷり60時間ものあいだ 船一隻、生き物ひとつ見ることはなかった。
一度、遠くに大きな魚の鰭が姿を現した。操縦ゴンドラの人たちは、鯨だろうと言った。
我々も喜んでそれを信じた。そうだったかもしれない。

鰭は波頭でキラキラ光った。小さな塊が持ち上がったと思うと、灰色の胴体が水面に上がってきた。やがて、何も見えなくなった。
僅かなあいだに、別の場所で同じように繰り返された。さらにもう一度。
限りない孤独な海で、壮大な光景であった。

なぜなら、そのとき初めて際限なく広がる沈黙の海面に音を聞いたからである。
毎日、日の暮れるのが早く、大洋上は星のまたたく夜となる。
我々は空と海のあいだの航路を、一片の帆のようにまっすぐ走った。
そんなある夜、私は「ブリッジ」から窓の外を見た。

風が私の髪を横になびかせ、眼に強く当たった。私は飛行船に沿って輝く光を見ながら思った。
彼らはそこに横たわっている。行儀のよい乗客たちが、寝間着から細い脚や太い脚を見せながら客室のベッドで眠っている。
誰も危険を感じることもなく、何にも心を煩わされることはなかった。

彼らは飛行船にすべてを委ねることが出来ることを知っていた。
この世界の大海原の上空を往く飛行船の前進が、早過ぎもせず時間通りに完結されるだろうということに何の心配も懸念も抱いてなかった。
それはいつかドイツと世界が十数隻の飛行船を、海を越え陸を越えて送り届けることが出来る未来の飛行への予感のようなものであった。

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