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「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

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第二、第三区間

エッケナー博士に栄誉刀授与

8月21日、最も暑い日であった。
汗が屋根に降る雨のように滴りおち、1時間毎にシャツを着替えねばならなかった。日本式茶室で涼をとった。
我々は自動車で一時間その街の通りを行き、とても小さな路地を抜けて河畔に出た。船に乗せられ、絵のように美しい川をたくさんの船が下っていた。

そこから通りを少し脇に入ると茶屋があった。
私はあまり気分が良くなかった。穴が開いているのだと言い聞かせたが、そこに強引に押しつけられたからである。
それでも、私は長靴を脱がなければならなかった。日本家屋では、外を歩く靴のまま踏み込むことは認められていないのである。
入り口では人々が我々を笑顔で歓迎していた。彼らはお辞儀をし、小声で我々を案内したので急いでついて行った。
私は階段に腰掛けて、上がり框でまず片方の長靴を脱いだ。

もう片方の靴を脱いでみると-それは破れていなかった。
建物の右手中央には幅の広い茶色と黒色の磨かれた廊下があり、少なく見ても幅3メートルはあろうと思われる素晴らしく大きな金魚の水槽が観葉植物と並べられ、盆栽と枯山水があり、それを通り過ぎて広間に上る階段に行き着いた。

座敷の入り口で10人ほどの芸者が艶やかな衣装で出迎えていた。
単調な琴を爪弾いたり、鼓を打ちあるいは笛を吹くその旋律にあわせて謡ったり、踊ったりしていた。
飛行船の乗組員一同は床の上に腰を下ろして四角い座布団に座った。
エッケナーの隣はドイツ大使であった。

それは逞しく背の高い男で、その下には小さな座布団がすっぽり覆われていた。
左側に、木製の欄干のある長い廊下から泉水に向かって開いている広間の中央には、百貨店にあるような大きな氷柱が置いてあった。
その透明な氷のなかに大きく色とりどりな花束が凍らせてあった。
やがて座布団は片付けられ、我々は板張りに四角く集められた

食事が始まった。また、畳の上の座布団に脚を曲げて座った。長い範囲に、低く四角い黒塗りの木製の膳を、若い娘も年増も、美女も醜女もあわせて20人の芸者たちが広間に運んできて、一人ひとりの前に置いた。その後、彼女たちはその場を離れることなく、ぴったりと傍に座り、ひざまずき正座し、我々を見て微笑んでいた。

彼女らは紙の箸袋をとり、どうやって食べるのか身振りで示し、あらゆる事態に備えてフォークを用意していた。私の膳には清潔な小さな器、深鉢、皿、それに筒が据えられていて、そこから何かを消そうとする魔法使いの仕事場のように見えた。

そこには氷で冷やした魚の切り身が置かれ、上品な味のだし汁、多彩な野菜片、雪のような白飯、一口サイズの肉片、少量のサラダ、鶏肉が少々載っていた。
我々は箸を使ったり、指で摘んだり、フォークを使ってそれを食べた。
芸者たちはくすくすと笑っていたが、何度も後ろに手を伸ばして新しく大きな瓶ビールを持ってきて酌をした。

これまでの生涯で、このときほど旨いビールを飲んだことはなかった。
ドイツのビール職人が調整した味であった。アルコール分はそれほど多くなく、素晴らしく旨かった。
日中は灼熱の太陽で乾燥し、夜は気温が高く蒸し暑かったので我々は何本もの瓶の栓を抜いた。それですっかり良い気分になった。

そこへ、極めて薄い磁器の杯に注がれた燗をつけた酒が出された。煙草に点けるために、砂の中央に灼熱した木炭を入れた陶器の火鉢が用意されていた。
大鉢が空になるとすぐに食卓から下げられ、別の新しい料理が出された。
最後に、大きく変わった形の、極めて繊細な色の桃が出てきた。

そして、そのあと我々に芸者から愉快な挨拶の書かれた扇子がプレゼントされた。
エッケナーは、その制服を脱いだらどうかと遠回しに促された。彼がそうすると、ほかの者もそれに倣った。
そうやって座っていると、ふくらはぎのあたりが締め付けられて痛かったが、それを除けばとても愉快な気分で喫煙し、ワイシャツの袖をまくりあげて酒を飲み、我々の前に座っている、頭を揺らしながら、赤い小さな革のバッグからアイロンをあてた白いハンカチや鉛筆を取り出す、色とりどりの、見たこともない鳥のような、小さな女性たちとおしゃべりをした。

私は自分の席から、扇子の裏に名前が書かれていたところに行くことが出来た。
彼女らは互いに小声でささやき、隠れ笑いしながら座った姿勢で扇を床に置き、その上に伏しかがんでたいそうまじめに書き込んでいた。
彼女らは絵を描くような筆致で、日本文字を描き、その横に横文字(ラテン文字)を添えた。

しかし、さらに厳粛な儀式があった。
演説が行われた。グレーのスーツを着たひとりの日本人がエッケナーの前に進み出て、長い謂われのありそうなケースを両手で差し出した。
そのなかには、帝が飛行船指令を褒賞し下賜された栄誉刀が収められていた。
飛行船乗りが、冶金産業の本場である大阪から飛行機で運ばれた、立派に装飾された日本の刀鍛冶の傑作である名刀を授けられたのである。
エッケナー指令は、袖をまくり上げ、いくらか感情を込め、いくらか悪戯っぽくその刀を手にとって身構えた。
それを見て日本人や芸者連は言い表せないほどの歓声をあげた。

公式な儀礼が、特別な観客の喝采のもとで、これほど楽しく自然に行われる国がほかに何処かあるであろうか?
詩人の頌詩を数多く諳んじ、決められた通りにたくさんの舞を踊らなければならない茶屋の小柄な娘たちは、飛行船乗りの短く灰色髭の男の中に新時代の英雄を見たのである。
彼らは尊敬の念を込めて、階段のところまで我々に付き添い、我々が靴を履き立ち去るまで笑いながら手を振って見送ってくれた。

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