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「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

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第一区間

握手

一日が過ぎ去った。早朝にホテルで静かに座ってなどいられなかった。
私はツェッペリンの施設へ、格納庫に行かねばならない。そのなかに二十数名程度の人がいるのが見えた。巨大な灰色の飛行船の側面で、一人の作業員が小さな吊り台から身を乗り出して、外被の生地の厚さを確認し、塗装し直していた。指令ゴンドラには地表への衝突に対する保護のために緩衝装置が取り付けられていた。当然、ゴンドラのなかを見るためには、小さな木製梯子を登らなければならなかった。その年の5月にツーロンで起きたトラブルを体験して以来、まだ見ていなかったのである。およそ5メートル四方のダイニングはちょうど整理整頓されたところであった。ホールのなかには布張りの安楽椅子が打ち付けられていた。エッケナーおじさんの、籐細工の肘掛け椅子は要らなかった。
小さな厨房には、見ただけで空腹を感じるような、よく太ったコックのマンツが居て、すべてをピカピカに磨きあげていた。
乗客用ゴンドラと操縦室とのあいだの短い通路で、通信士のシュペックと出遭った。それは嬉しい再会であった。
指令ゴンドラ先端の、ワイアで結びつけられた奇妙なアラバスターと鋼の明滅する謎に満ちた空間のギアのあいだに、控えめで思慮深いブロンドのクヌート・エッケナーが立ち、装備の機能をチェックしていた。我々は笑って、互いに相手の眼を見て握手をした。そこには次の文字が書いてあった。
世界周航!素晴らしいことではないか!それは口に出しては語られなかった。だが、何も語らなくとも、互いに理解し合える握手というのは、何と素晴らしいものだろう。
大きな黄色い折りたたみテーブルに世界地図を広げる。私は東京への航路を指で触ってみた。

私は、冷たい突風にためにロシアに不時着を余儀なくされた場合に備えて持参するつもりの2挺の猟銃のことを考えた。すでにそれだけで、自分たちで焼いたシベリアの熊の匂いを感じた。

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