LZ127Profile

「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

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第一区間

「これが飛行船の航行だ!」

我々は山脈に近づいた。大部分は全く探査されていない。我々の地図には、山頂は1200メートルと記入されているが、実際は幾つもの箇所で2000メートルを超えていた。
それを乗り越えるためには非常に高く上昇しなければならなかった。我々は航路を啓開しなくてはならなかった。そして、雄大な眺望が眼前に現れた。

巨大な噴火口の上を、太陽に照らされてぼろぼろになったむき出しの、灰色の岩塊が突然落下するのが見えた。ナイフエッジのような岩尾根が弧状になって、またしても白く濃い霧がうなりを上げて飛行船の前に立ちのぼり数秒間、飛行船を覆った。
その谷では河床が枯渇し、石が転がり、植物の気配はなく、藪も草叢もなかった。
我々はそんな状況のなかで一時間航行したが、エッケナーは直感により飛行船を蛇行させて正しいコースをたどった。

峨々たる山岳の壁の向こうに、遠く灰青色の平面が見えた。海だ!
解放された。助かったのである!
我々は、この人類の歴史に残る状況を、永久に繰り返し思い起こされる出来事として感激した。
状況と出来事は人類の歴史のなかで繰り返されるが、感情の高まりもまた同様である。
かつて、長い辛苦の進軍の末に黒海を見て「タラッタ!タラッタ!」と叫んだ一万人のギリシャ人と同じ歓喜が、我々のうちに沸き起こった。指令のエッケナーは腕を上げて喜びの感動とともに叫んだ。「これが飛行船の航行だ!」

まるで地獄の荒野から天国に滑空したかのように、数分後には左右にそそり立つ傾斜した岩壁に興奮し、オデッセウスが漂着した伝説の島国であるパイアケスのような海岸、急勾配に落ち込む白い海岸に出た。

数分後には、垂直に落ち込む岩壁のまわりで左右に広がるパイアケスの海岸が波立っており、まるで我々は地獄の荒野から天国にやってきたような気分であった。
磯には緑がかった白い泡がザワザワと音を立て、透き通った水、小さな漁小屋、小さな漁船、それに日に当たっているアザラシが見えた。
樺太島に沿って航行し、蝦夷岬の先端に、初めて見る日本の燈台が見え、それから日に当たって明るい海岸が見渡せた。海のはるか遠く、小さな突端の先まで岩壁が続いていた。

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