LZ127Profile

「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

LZ127Bruecke_2

第一区間

飛行船を操舵

いま私は飛行船の頂点にいる!
ここは飛行船の頭脳・神経系統の中枢である。ここでは、飛行高度や針路を検出し、暴風に対抗し、飛行船のバランス調整が決定される。そのため、昼夜を問わず中断することなく、昇降舵手と方向舵手は4時間ごとに当直を交代する。

方向舵の舵輪は最先端にあり、そこからゴンドラ先端両側が曲面になっており、昇降舵輪は左側にあり、そこから「ブリッジ(船橋)」が始まっている。
レーマン船長は、私にその装備について説明してくれた。まるで人造人間ができる様子を、具体的で学識風な表現で説明する錬金術師の話を聞いてるようであった。私は彼の言っていることが全く理解できなかった。しかしながら、その話を聞くのは心地よかった。

時折、関連が明らかになったので、私は技術の精密さや、ツェッペリンと名付けられた、子供の楽しい玩具のようなこの名前の素晴らしい発明が、基本的に単純明快な構造であることを理解した。

青いズボンと白シャツで昇降舵についていたクヌート・エッケナーが、私にその舵輪の秘密とその装置について説明してくれた。彼は飛行船のすべての情報を知り尽くしていた。

彼は、士官が皆そうであるように、叩き上げの技術者で、基本的にはどんな機械工の組立作業にも携わっていた。
だが、レーマン船長は、私に一度操舵して見るべきだと言った。灰色リンネルの煙管服を着た若い航海士官がにやにやしながら歩み寄り、私に舵輪を持たせて、電気的に作動する、針が振れて飛行船の姿勢変動を示す、数値の書いてある大きな紙を指さした。
私はそこに立って、大飛行船の牽引力を手の指に感じた。突風は強くなかった。回転するのに動かした力は、感覚重量でわずか2、3ポンドであった。

聞いたところによると、この力は強い嵐のときには20キロほどの重さになるという。
それならば、4時間の当直で、汗だくになって疲れ果てるのも不思議ではないだろう。だが、この飛行船の乗組員にとって、自分たちの仕事ほど愛すべきものは世界中探してもなかった。

航海士官は、私が何か間違いをすると助けてくれる。そして、私はすべてを間違えた。私は、自分がここでツェッペリンを操縦しているのに、それでも優秀な飛行船は前進するということを奇妙に感じた。操縦ゴンドラのガラス枠越しに、私は星が輝いているのを見た。鎖と車輪とアルミニューム枠のあいだに、乗組員のお守りがあった。剥製の犬、一風変わった膨らまされたゴムの鳥、それらが影絵になって堂々と夜の闇の中を行進していた。

クヌート・エッケナーは私を飛行船後部へ連れて行った。我々は、もう誰も居ないサロンを通って行った。そこには空のワインボトルが置いてあり、グラモフォンが月光に光っていた。寝室からはいびきが聞こえ、タイプライターがカタカタと音を立てていた。

彼は洗面所の脇の小さなキャビネットを開けた。そこにはジャイロコンパスが設置されていた。海洋を航行する船舶が自ら正しいコースをたどることを可能にする重要な発明が飛行船にも使われるようになるまで長く掛かった。というのも、それには突風による如何なる衝撃にも全く影響を受けない、黒く神秘的な球が収納され、特異な懸架方式により、その指針が機械的に偏向することが出来ない新構造が必要だったからである。それは磁気的に駆動された回転のみにより磁極を示すのである。

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