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「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

Sibirien_1

第一区間

太陽はロシアから昇る

夜中の2時に私は起き上がった。太陽がロシアの大地に昇るのに、ベッドに横になっているなどという考えは耐えられなかった。
私は、初めてのロシア大地の一端と、初めてのロシアの人間を見なければならなかった。我々がその上を飛んでいる貧しい土地や農民たちの土地は、トルストイの住んでいた大地であった。
ここには、南ロシアの景色の数々、小説のようなロマンティックなものはなかった。ここにあったのは、一軒の農家とその上に広がる「暗闇の王国」だけであった。3時になると、風景の上に徐々に光が伸びていった。4時には、明るくなり始めた。

大きな、手入れしていない緑の絨毯のようなロシアの大地に、ごくわずか穀物畑が広がっているのが見えた。一叢の木立と小さな湖、いくつもの沼が見えた。
やがて灰緑色の地平線に赤く燃ゆる点がにじり進み 2、3分のあいだに空と大地の交わるところに幅広い火が輝いた。太陽がロシアの大地に昇っていった!

空には雲がかかり、光は幾重にも重なる灰黒色の密雲を貫いて、いまや明々と燃えていた。
我々は百キロメートルも一軒の家も見ることなく進んだ。人間を見つけようとしたが無駄であった。彼らはそこで眠っていたに違いない。なぜなら、もし飛行船を見たなら取り乱して草原を駆けだし、小さな木小屋のなかに隠れたであろうから。
モスクワへの飛行は最終的に断念された。しかし、例のロシア人は「モスクワの工業地帯、たくさんの人、シベリアよくない」と言っていた。エッケナーは当直に就くために革ジャンパーを着て現れた。彼は、またもわずか4時間しか眠っていなかった。彼はロシア人を見て、南に新たな低気圧があるのが判り、それを回避しなければならないと説明した。

ロシア人は何も言わなかった。彼は一言も理解していなかった。我々はロシアで最初の街、ヴォログダを見た。扇状に展開されたその街の、明るく煌めく太陽に照らされて金色の教会のドームが輝いていた。いくつかの白亜の教会が、低く幅の広い木造家屋の並ぶ整った街路に聳え立ち、輝いていた。
飛行船のプロペラは轟音をたて、住民の眠りを覚ました。たった一人、赤い上着に黒い毛皮帽をかぶった男が教会で身動きもせずに立っているのが見えた。

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