LZ127Profile

ツェッペリンNT乗船記

Cockpitpanel

ボーデン湖西コース(4)

このツェッペリンNTにもGPSが装備されている。GPSとはグローバル・ポジショニング・システムのことで、地球の周りに多数打ち上げられた人工衛星からの電波を受信して、地球上の位置を測定するシステムである。元々は米国が開発した軍事用航法システムであったが一般にも開放され、カーナビゲーションシステムなどに広く使われている。

経度、緯度で地図・海図上の位置を測定するだけでなく高度も測定できるので、本格的登山家などは腕時計型のGPSを携行している。陸標のない大洋を航行する場合、以前はNNSSなどのシステムが使われていたが精度が悪く、海図と照合すると船舶の位置が海岸線の道路より山側に表示されることもあったが、GPSでは測定方法によって数m~数十m程度の精度である。

1920年代後半に「LZ126:ZRⅢ(ロサンゼルス)」を合衆国(ニュージャージー)のレークハーストに空輸したり、「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」で南北大西洋を渡るときは大変であった。

「グラーフ・ツェッペリン」の操縦室正面にはマグネットコンパスとジャイロコンパスが設置されており、無線室にはテレフンケンの長波・短波送受信機とともに方位測定装置が装備されていた。ラジオ・ビーコンは大雑把で役に立たなかったとハロルド・ディックはその著書で述懐している。

飛行船は風圧側面積が大きく、比較的低速のため偏流が大きい。このため常に偏流を測定し、針路を補正していた。夜間は350万キャンデラの探照灯を使用していたという。彼らは1800マイルも海面しか見えない南大西洋をこの航法で航行し、予想時刻と数分違いで孤島フェルナンド・デ・ノローニャを正面に発見したとレポートしている。当初、大洋を航行中は洋上の船舶と交信し、その船から位置情報を得て航行する予定であったが、海上の船舶は20~50マイルも自船位置を誤認している場合もあったという。

このツェッペリンNT型飛行船「D-LZZF号」はボーデン湖の沿岸を30分から1時間程度、長くてもシャフハウゼン往復の2時間航行しているので有視界飛行であるがGPSのお陰で天測航法も安心である。

飛行船に乗った記念にフライトアテンダントのLさんにシャッターを押して貰ったり記念撮影したりしているとフリードリッヒスハーフェンに近付いていた。操縦席との間に仕切りもないのでフロントも計器パネルもすぐ目の前である。発着場の上空に来ると、第2便の乗客がDさんに誘導されて待機線に2列縦隊に並んでいるのが見える。

乗客を乗せ替えるときは最初に乗せるより容易であることは理解できる。2人降りて2人乗り込むことを繰り返せば、船体重量が2人分の体重変動だけで大きな状態変化は生じない。

我々が乗り込むときに乗っていたのは乗務員だけであったので乗客が乗ると船体重量が増加する。地上支援員はパイロットと連絡を取りながら2人ずつ乗せていた。12人も乗るとそれだけ船体重量が増えるがバラスト投棄もなかった。浮力はプロペラをチルトさせてそのスラストで調整していたのであろうか?テイクオフも実になめらかであった。

発着時刻もタイムテーブル通りで、午前9時0分に離陸して、下船したのは午前10時0分であった。これはおそらく偶然であろうが初めて乗る身には驚きであった。ホバリングしたまま、素早く乗客を乗せ替えるとそのまま浮揚して行った。パイロットも乗客も窓から手を振っている。黄色いジャケットを着用したDさんも手を振って見送っていた。

そこから歩いて乗船前に案内された待合室に戻るとちょっとしたセレモニーがあった。用意されていたスパークリングワインが配られ、お疲れ様でしたと乾杯したあと、1人ずつ名前を呼ばれて、日付と名前の書き込まれた乗船証明書を手渡され、50ページほどの、これも名前入りのフライトブックが配られた。ツェッペリン飛行船の歴史からツェッペリンNTの仕様まで載った立派なフライトブックである。飛行記念にふさわしい良いセレモニーであった。

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