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陸を越え、海を越え

B013

Hugo Eckener著 "Im Luftschiff über Länder und Meere"(続き)

1931年の北極飛行(4)

午後7時頃、シュターケン基地で繋留し、数万人の観衆がいる中で、ガスと燃料を補給しているとき、知人から「北極海上空で、何か間違いが起きることが怖くないのか?」と聞かれた。

私は、提供されたスープを飲んでいたところであったが、次に様に答えた。

「いや、彼は『すぐ狼狽える子馬』なのだ。そんな人間は航空に近づかない方が良い。
アムンゼンが書き、リッサー・ラーセンが北極を越えてアラスカのノームに届けた北極飛行の報告によれば、ノビレは神経質で危険なパニックに陥っていた。
アムンゼンの報告によれば『もしリッサー・ラーセンが、泣いて涙をぬぐっているノビレの手から昇降舵輪を引きはがさなければ飛行船は氷山に当たっていた』。
そして、スピッツベルゲンに到着する少し前、彼の飛行船が重くなり始めたときも同じように、明らかに彼は興奮していた。
しかし、飛行船は判りきった理由で重くなり始めていた。
舵に軽度の故障を生じ、損傷を補修するためにエンジンを止めなければならなかった。
飛行船は非常に『軽く』、自由気球のように上昇し、エンジンが止まったあとも、低い雲の層を抜けて圧力高度まで上昇し、そこで自動弁によりガスを排出する。
飛行船はその状態を持続するので雲の上の熱い太陽に暖められてガスは排出し続け、その結果7万立方フィートのガスを失う。
補修が完了した後、再び雲の層を下り、ガスは徐々に冷えて飛行船はその結果急速に重くなる。
私は飛行船が、本当に空中に維持できなくなるほど重くなったというのは怪しいと思っている。
彼らは、容易にバラストを投下することが出来た。
衝突の衝撃はずっと強いから、飛行船の重量増加でパニックになり、昇降舵を正常に操作しなかったのだ。
それで判ると思うが、イタリアの飛行船の惨事は、北極で飛行船を使用したことに因るのではなく、広範囲に広がる北極圏を心配することには根拠がないのだ。」

翌日の午後4時過ぎ、我々は旅を続けた。その日の目的地はレニングラードで、そこで実際に北極飛行を行い可能な限りの燃料を充填して準備を行う予定である。

飛行は快適で、興味深いものであった。バルチック海に面したシュテッチンまで航行し、そこからスエーデン海岸に沿ってアーランド島の古いハンザ同盟都市を通過し、フィンランド湾をヘルシンキまで行き、最後にナルワを通ってレニングラードに行き、午後6時過ぎに着陸した。

ナルワからずっとロシアの飛行機が随伴し、ロシアの軍事施設を回避した航路を飛ぶように誘導されたので、それらの施設をあまり見ることが出来なかった。

飛行場には非常に多くのロシア軍将校と科学者が待っていた。

ロシア政府は我々のために燃料補給だけでなく、食料品も提供してくれた。翌朝、早い時間に沢山のハムだけでなく、飛行船の厨房へのロシアからの特別な贈り物として大量のキャビアも積み込まれた。

前夜の祝宴が長引いたおかげで少し遅くなったが、7月26日の朝9時に満載状態の飛行船は大勢の熱狂的な声援のなかを飛行に出発した。

燃料は5基のエンジン全てに対しておよそ105時間分積み込んだが、そのうちガソリンは21時間分であった。それだけの量で、4基のエンジンならば130時間まで飛行を継続することが出来る。

最終的に105時間の飛行を終えてベルリンに着陸したとき、船上にはさらに20時間分の燃料が残っていた。

北西ロシア上空の飛行は、ラドガ湖を通り概ねオネガ河口にむけてオネガ湖を通過したが、眼前に広がる森林と輸出用木材が非常に印象的であった。オネガの下流域は浮いた丸太でほとんど埋め尽くされ、オネガ湾は数マイルにわたってそれが広がっていた。

同じ光景がアルハンゲルスクでも、広いドビナ流域に広がっていた。

天候も興味深かった。北西ロシア全体、ほとんど北極圏のアルハンゲルスクでは飛行高度1000フィートで気温は華氏68~77度で「寒冷地帯」に近づいているとは思えなかった。レニングラードを出発した多くの乗船者は寒さを見込んで分厚い極地用セーターを着ていたが、北緯65度でも真夏のような天候なので、また脱いでいた。

しかし、入電してくる天気予報は、それがまもなく変わることを知らせていた。

フランツ・ヨーゼフ・ランド沖の砕氷船マリギンから、厭な雪嵐がロシアの最北部から到来して2日前から荒れ狂っており、北極海の2~3の無線局は強烈な北風を伴った北極低気圧がスピッツベルゲンとフランツ・ヨーゼフ・ランドの南からノヴァヤゼムリヤを越えてカラ海に拡大しており、北極海で東進しているらしいというニュースを受信した。

北極飛行(5)

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