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陸を越え、海を越え

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Hugo Eckener著 "Im Luftschiff über Länder und Meere"(続き)

南米航路(6)

我々は、このあと7年間、百回以上ここを航行しており、その都度 審美と気象観測の眼でこの素晴らしい眺めを見ながら、素晴らしい経験を重ねたのである。

そうしているうちに、無風帯を通過してさらに進んでいた。「バラ色の指のキューピッド」と呼ばれる暁の神が、壮大に広がる雲海の眺めを見せ始める。物凄い積雲が、殆ど動きのない海にそそり立つ山岳のように積み上がり、それが海面に映って何とも言えない眺めである。

濃紺の海水は非常に澄んでいて、深くまで見下ろすことが出来る。あちらこちらの海面を波立たせる、南からの軽風が真珠貝のように様々な色にきらめく。トビウオは、飛行船に驚いて四方八方に跳び上がって滑空し、その影を海面に落としている。

午前8時半、セヴィリアを発ってちょうど2日経って赤道を越えた。船乗りの習慣に従って、初めての赤道通過を祝ったが、羽目を外す程ではなかった。淑女はオーデコロンを軽くかけ、紳士はソーダ水で、それぞれにユーモラスな歌を口ずさんで洗礼式を行った。

午後3時頃、前方の海面にフェルディナンド・デ・ノローニャの、絵に描いたように奇妙な形の岩山、平滑な垂直壁の高い岩の尖塔「神の指」が姿を現した。人は常に、たった1日でも単調な海洋を公開した後は、たとえそれが赤道直下のように多彩で美しくても、小さな陸地を見付けると興奮するものである。あの奇妙な形の岩の塊を見たときの驚きを想像するが良い!

我々は気持ちに余裕を持ってその島を通過したが、その絵のような、常に変化する景色を食い入るように眺める乗客の興奮はよくわかった。

フェルディナンド・デ・ノローニャはブラジルの流刑地で、そこに島送りにされた住人が巨大な銀色の鳥を非常に興奮し、驚いて見上げていた。思いがけなく、我々は世界から閉ざされたこの超自然とも言うべき奇跡の島に侵入していたのである。彼らは水平線の彼方に見えなくなるまで、おそらく何週間も監禁された経験の辛さを感じて、あこがれの眼で見送っていたに違いない。

フェルディナンド・デ・ノローニャで捉えた南東の貿易風で速度は僅かながら低減し、そのためレシフェに着く前に夕闇となった。この状況下で、全く未知の発着場に降りる着陸作業は非常に慎重に進める必要があった。しかし、予想に反して全ては順調に安全に進行し、午後8時に繋留柱に繋ぐことが出来た。

飛行船が安全にレシフェに到着したことで、当然ながら地元住民は非常に興奮して、遅い時間にもかかわらず、数万人の人が発着場に押し寄せ、ペルナンブコ州政府の挨拶があり、「画期的な」催しとなった。

我々も、南米航路の可能性をこの飛行で実証したように思えて非常に喜び、ツェッペリンの渡洋商用航行に向けての決定的な第一歩を印したと思った。

翌日、リオデジャネイロへのデモ飛行に飛び立った。

一日かけて飛行船に燃料を補給したあと、真夜中に近い午後11時に繋留柱から繋留索を外し、飛行に出発した。そんなに遅く出発したのは、翌日の早朝リオに着陸したかったからである。24時間飛行で、思わしくない風に遭遇したときのことを考えて数時間の余裕をとった。

その飛行は非常に快適で、低高度で飛ぶ飛行船から旅を楽しんだ。飛行船の南米飛行で、おそらくいちばん良い区間であったと思う。

果てしなく続く白浜沿いに、強い南東の貿易風に吹かれながら、沖に出たり戻ったり、上がったり下がったりしながら、万華鏡のように黒、黄緑、青、白と様々に色を変える景色を眺めながら進んだ。白い浜の彼方に、高さ700~1000フィートの低い奇妙な山も見えた。小さな湾や、大きなサンフランシスコ川のような河口上空を通過し、絵のような街や、切り立った斜面に見事に造られた活気のあるバイアのような大都市や、美しいビトリアなど、フリオ岬で鋭く西に旋回して、有名なリオ湾に到達するまで「世界で最も素晴らしい一日」が展開された。

最初の飛行では良い天候に恵まれなかった。パンペロが北寄りに広がり、バイアの北まで南部ブラジルの海岸線に吹きつけ、煙草、綿花、玉蜀黍の農園を手酷く痛めつけていた。強い南東から南よりの風が、終夜前進を阻み、翌日も殆ど一日中吹き、頻繁に土砂降りに見舞われた。

しかし夜中に、レシフェを出発してから正確に24時間後に目的地に到達した。地上で最も煌々と輝くリオデジャネイロの夥しい光の海が目の前に広がっていた。

しかし、当然なことであるが、夜間に初めて訪れる、しかも周りに山が聳え立つリオ湾を飛ぶことは出来なかった。それで、エンジンを低速で運転させてそこから遠ざかって夜明けを待った。飛行船が殆ど音を立てずに静かに動いていたので、乗客は睡眠を妨げられることなく熟睡していた。

この時が最も良い時間であったのだろう。

太陽が6時に上がり、赤金色の光線が今まで見たこともない美しい景観に注がれたとき、驚きで息をのんだ。リオ湾とその周辺は有名で、以前から数百万人を魅了していたが、それまで誰も高度1000~1300フィートからの美しい絵のような眺めを堪能した人はいなかった。

南米航路(7)

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