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陸を越え、海を越え

B118

Hugo Eckener著 "Im Luftschiff über Länder und Meere"(続き)

南米航路(5)

同程度の高速を維持しながら、翌朝3時まで高度1000フィートで飛行した。その後、ほぼ北緯5度に到達し、貿易風に乗ってそれまでの20時間で優に1500マイルを飛んでいた。

しかし、ここで限界に来た。気温を華氏62度に保ってきた冷たい貿易風が海面上でおよそ75度の無風帯の暖かく湿気のある気団にぶつかっていた。この条件で、激しい雷雨と驟雨を伴う停滞前線が出来ていた。これは熟練の飛行船運航者や気象学者によれば、ツェッペリンが決して通り抜けることの出来ないものであった。

どうやって、この飛行船をこの状態から乗り越えさせるかが焦眉の急である。最初の北米飛行における経験で我々には確信があった。

しかし、赤道帯での驟雨は温帯のものに較べて非常に激しいのではないだろうか?

午後4時、どんな雲も見えない真の闇を飛びながら雨雲の中に飛び込んだ。だた、窓を打つ雨音が聞こえるだけで何も見えなかった。昇降舵手は飛行船が重くなっていると報告した。

2~3分後、少し穏やかになった。最初の障壁を乗り越えたのである。

そして、短時間のうちに次の障壁に飛び込んでいた。雨はふたたび、太鼓を打つように降り、飛行船の灯りでそのまわりを渦巻く雲がぼろ布のように見えた。

今回は最初より長く続き、終わらないのかと思った。雨水は外被の裂け目や窓の隙間から流れ込み、まもなく操縦室の床に何センチも溜まった。飛行船の内部からキャンバスで覆われた内装を通って流出しはじめた。飛行船はどんどん重くなり、私は昇降舵手が高度を維持出来ないのではないかと心配になって彼を見た。

しかし、そのうちに飛行船は4、5度の傾斜でうまく維持できるようになった。8分か10分程度、距離にして7マイル半か8マイル進んで雲の外に出た。その雨によって熱帯驟雨の量の凄さが判った。

しかし、飛行船がその動的揚力の半分ちょっとの力で維持できることも判明した。その飛行船の動的な全揚力は13トンを越えるから、飛行船に溜まった雨水の量を約8トンと算定した。

後の経験によって、長く続く土砂降りのときでも、雨水の荷重に対しては動的揚力の半分程度が必要になるだけで済むことが判った。これは心に重くのしかかる心配を取り除く画期的な発見であった。もう熱帯特有の突然の豪雨を心配する必要はなくなった。確かに、霰まじりの嵐はもっと切迫した状態である。

それに加えて、この無風帯の環境では突風と乱気流はとても穏やかであった。強い上下方向の気流はあまり聞いたことがない。雷雨現象も比較的軽微であった。これは北東の貿易風が相対的に弱いことによると思われる。

後の飛行で、強い貿易風は無風帯の端に発生する非常に強い乱気流を伴った驟雨前線によるものであり、出来れば避けなければならないことが判った。

しかし、我々にとって最も重要なことは、月の夜、雨をたっぷり含んだ驟雨をもたらす雲にやみくもに突っ込むと、簡単に荷重を増やし、さらに必要なときに投下することの出来るバラスト水を得ることが出来ることである。いつもしているように慎重に運転するなら驟雨域を安全に通過することが出来た。

南米航路(6)

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