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陸を越え、海を越え

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Hugo Eckener著 "Im Luftschiff über Länder und Meere"(続き)

世界周航(12)

確かにここの気象、特に強大な竜巻は想像も出来ないほどひどく厳しいこともあったが、これらの嵐の広がりはかなり限定されており、比較的容易に回避することが出来た。広範囲な雷雨前線はヨーロッパの前線のような厳しい環境条件の変動を伴うものではない。また上下方向の突風はそれほど外乱を伴うものでないという印象を受けた。

これは一般的に大陸の、相対的に乾燥した気団がその地域を覆い、ヨーロッパ西岸がガルフストリームの非常に湿った空気を受けるのに対し、ロッキー山脈を越えてくる太平洋からの幅広い気流を遮るからであると考えられる。

このあと、まもなく大陸的現象を経験することになる。太平洋を航行中に経験した安定した大気に対して、米大陸は非常に面白くなかった。ロッキー山脈南端をまわるために、夜間サンディエゴに向かって南下していて、アリゾナ州ユマに向かって低高度で転舵した。そこからアリゾナ州とニューメキシコ州を越えてエルパソに向かっていたときのことである。

夕刻、アリゾナ州境にいた。素晴らしく晴れ上がった日であった。南には遠くカリフォルニア湾とメキシコが見えた。そこでは雷嵐が発生しているように見えた。アリゾナの砂漠に向かっている飛行船の前方は非常に晴れ上がり、早朝の冷気がとても穏やかで、この静かな大気の中を航行するのはとても良い気分であった。非常に遠くまで展望がきいた。特に北には雄大なコロラド川が山岳の渓谷に注いでいた。

それに沿ってグランドキャニオンまで引き返したが、残念なことにこの美しい景観は見えなくなった。ゆっくり昇った太陽が照り始め、地上の大気を暖めた。太陽が昇るにつれて飛行船は揺られ始めた。最初は辛うじて気がつく程度であったが、昼頃にはとても激しくなり、昼食のテーブルでは食器類が跳び上がりはじめ、荒天の海を行く汽船の食卓のように食器留枠を上げねばならなくなった。

飛行船は上昇気団により、一気に200~300m持ち上げられ、同じだけ引き落とされた。

とても不愉快であった。大戦中、南方に派遣された海軍の飛行船がサハラ砂漠を横断の飛行で、乗組員の大半が荒天に馴れている水兵であったのに船酔いになったことを思い出した。私は船酔いにはならなかったが、そのとき可能であれば夏に砂漠の上空を飛ばないことにしよう、少なくとも可能な限り素早く渡ろうと決心したものである。

夕方、エルパソの街の境界に着き、馬の背のようなギャロッピングと、南への航行は終わりとなった。山並みを越えてきた航跡を背後にして、予定に従ってテキサス、オクラホマ、カンザスを経てシカゴに向け北東に舵を取った。

夜は静かで美しかった。飛行船は嫌な天候に煩わされることなく安定して針路を航行した。早朝、タルサの近くでアーカンソー川を渡り、カンザスシティを目指してミシシッピー川、ミズーリ川の支流を越えた。夜のあいだにアリゾナ、ニューメキシコの暑さから解放され、清涼な空気と爽やかな天候で、燃料切れの心配もする必要がなくなった。

この無寄港横断飛行により、アメリカ合衆国の大きさ、活気、多面性を強く印象づけられた。

世界周航(13)

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