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陸を越え、海を越え

LZ127PC003

Hugo Eckener著 "Im Luftschiff über Länder und Meere"(続き)

グラーフ・ツェッペリンの最初の飛行(3)

私が午前6時に飛行船発着場に着いたとき、皆 大変忙しそうにしていた。飛行船に積み込む荷物と郵便物は届いており、飛行船は出発の準備に掛かっていた。大きく反響する格納庫では、エンジンが専門家の調整で爆音を響かせておりガス嚢は満載にするため最後の充填を受けていた。

しかし私の最大の関心は、これから本当にジブラルタルを越えて長い航路に旅立てるかということであった。フレミング船長、シラー船長との打ち合わせで、その時点ではアゾレス経由より短いと思える飛行ルートを決めた。しかし、個人的には予備案を用意していた。天候次第では、ローヌ渓谷のリヨンからビスケー湾に向かわなければならないかも知れなかったからである。

だが出発の時刻となったとき、地中海経由のルートを選んだ。それからは、すべてが素早く静かに進んだ。午前7時半、乗客は手荷物を持って乗船した。

乗客には航空省の代表が4人居り、10人は有料の一般乗客で、6人が大新聞の代表であった。そのうちに2人のアメリカ・ハースト新聞の代表、フォン・ヴィーガント氏とヘイ女史がいた。女史は、のちにすべての大飛行に参加し、ツェッペリン飛行船の熱烈な友人であり支持者となった。

離陸して、8時ちょうどにエンジンを始動した。

素晴らしい展望が、動くパノラマのように眼下に展開され、大きな窓の前に心地よい椅子にかけた乗客は驚きと感激でそれを眺め、ツェッペリン飛行船で航海することが如何に快適で楽しいものであるかを実感していた。この飛行の主な目的の一つは、この経験で飛行船に乗ると、ただ飛ぶだけでなく「航海」という言葉で表される素晴らしい意味で船旅をするのだということを人々に紹介することであった。

ライン川を全速で飛んで、古城や中世の街の上を過ぎ、シュヴァルツヴァルトの南縁に沿ってバーゼルに向かい、川を渡って1時間半足らず低空飛行した。期待して待っていた群衆が、橋や広場の外まで、我々の順調な飛行を祈って押し寄せていた。そこからサオネ渓谷を下った。

右手に、有名なブルゴーニュの葡萄畑でワイン業者が収穫しているのが見えた。左手は雪を頂いた巨大なモンブランなどアルプスの連山が目を楽しませてくれた。それからアヴィニヨンのような歴史のある街や、古代ローマ建造物の遺跡が点在し、引き続き眼と心を惹きつけた。

そのうち、昼過ぎに地中海に到達し、忘れがたい新たな感激が心を揺すった。あたかも周りを取り巻く、霧のかかった青の広がりのなかを滑空しているようであった。空と海は何処が境目か判らないように溶けこんでいた。

我々は、何か固いゴツゴツしたものから解き放たれて、軽く軟らかな香りのなかに浮いているようであった。夢のなかで、乗客は言葉にならない恍惚のなかで可愛く飾られたコーヒーテーブルに座って無限に広がるパノラマのような海を見ながら、よきフリードリッヒスハーフェンのケーキを楽しんでいるような感じであった。

飛行船による船旅は素晴らしい。

「穏やかな海と楽しい旅行」とは、この地中海上空の飛行のための言葉であり、それはまた翌日の大西洋飛行のための言葉でもあった。

グラーフ・ツェッペリンの最初の飛行(4)

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