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LZ127:一般配置

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一般配置

「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」は非常に美しい形状をしている。
船体長さが236.6m、最大直径が30.5mで、その比はおよそ7.8である。
1936年に竣工し、夢の乗り物と言われた「LZ129:ヒンデンブルク」の約5.2に較べてスマートである。

外観上の特徴はそれだけではない。操舵室、航海室などとサロンや乗客用キャビンをつないだ大きなゴンドラは船体の前部にあり、主船体にめり込むように一体化されている。
賠償飛行船としてアメリカ海軍のために建造され、引き渡し後「ロサンゼルス」と命名された建造番号LZ126の「ZRⅢ」と較べても「LZ127:グラーフ・ツェッペリン」の方が美しい。

これは、この飛行船を建造した当時、ツェッペリン飛行船製造社フリードリッヒスハーフェン工場の建造用格納庫が第3格納庫(長さ235m、幅40m、高さ35m)しかなかったので設計主任のルートヴィヒ・デューア博士がここでガス容量1万立方mの飛行船を建造するために苦心して設計した結果なのである。

その基本設計の概要を眺めてみる。

主船体は軽合金ジュラルミンの複合桁で正28角形のフレームと呼ぶリングを組み、5m間隔で配置されている。15m間隔で補強材のはいったメインフレームを置き、そのメインフレームの間に2本の補助フレームが配置された。それぞれのフレームはジュラルミンの細い型材を組み合わせた桁で構成され、それを前後方向に28本の縦通材でつないだ巨大な籠状の骨組みで出来上がっている。

船体には水上船舶と同様な座標系が用いられた。長手方向の位置は、船尾近く(水平・垂直安定板後端に近い位置)に設けられた基準点からの距離によってステーション100などと呼ばれていた。この場合、基準点から船首方向へ100mの位置という意味である。

船首尾端では、4mとか4.5m間隔の区間もあるが、ステーション10からステーション195までの間は5m間隔でフレームが配置されている。

上述のようにフレームのうち、15m毎にメインフレームが置かれている。メインフレームは、隣接する3本の縦通材のあいだに幅約7mの薄い菱形を構成するように、長さ約1mのストラットを入れてトラスを組んで補強したフレームである。このメインフレームはステーション番号 -2、10、20、35、50、65、80、95、110、125、140、155、170、185、195、207.5の16箇所に配置されていた。
このメインフレームのあいだに5m間隔でおかれた補助フレームはトラス補強材はなく、桁材で出来た正28角形のリングである。

メインフレームで船体を前後に17の区画に分けて、それぞれの区画に浮揚ガス(水素)を入れる大きなガス嚢(ガスセル)が入っており、その合計容量は約10万5千立方mとなる。

ガス嚢の素材は「LZ7」以降、ゴールド・ビーターズ・スキン(金箔打皮)とよぶ牛の大腸を洗浄・点検したものが用いられていたが、「LZ127」の頃は人工の膜材に代わっていた。
メインフレームには、ストラットの配置されない14本の縦通材相互を対角線にワイヤを張ってバルクヘッドとしてガス嚢区画の仕切りと断面形状の保持に用いていた。

中央部の12区画のガス嚢は上下に分かれており、容積比で上部60~70%は浮揚ガスである水素が充填され、下部の30~40%には推進用発動機の燃料であるブラウガスが入れられていた。これは長距離を無着陸で飛行する場合、燃料にガソリンを用いていると燃料の消費に伴って飛行船の自重が軽くなり、浮力調整のため浮揚ガスである貴重な水素を放出せざるを得なくなるため、空気と殆ど同じ比重のブラウガスを用いることにしたためである。
後述するが、マイバッハ・エンジンはブラウガス・ガソリン両用出来るように設計されていた(主船体底部にはガソリンタンクも装備されており、重量調整用のバラスト水の補助を兼ねていた。外気温度が高いと浮力が不足し、バラスト水を放出する必要がある。バラスト水やガソリンタンクについては別項参照のこと)。

飛行船の外被は通気を防ぐために密に織られた綿布に5回防水処理が行われていた。最初に防炎処理を施し、その後何度もセロン処理を行う。最後のセロン上塗りのときにアルミニューム粉末が添加される。それによって飛行船は銀灰色になり、アルミニューム張りと見違える印象を与えた。アルミニューム塗装には理由があった。外被が紫外線で傷むのを保護し、ガス嚢を加熱する好ましくない太陽光線から護るためである。ガス嚢が加熱によって膨張すると圧力が過大になり、自動調整弁からガスを噴出させることになる。外被は非常に目の細かいサンドペーパーで磨かれ、ラッカー仕上げのようにすべすべにして飛行中の摩擦抵抗を低減させていたのである。

主船体の底部中心線上にはジュラルミンの複合材で逆三角形断面のキール通路が設けられていたが、この「LZ127」からは断面の中央やや下にもう一本中央通路が設置されていた。この通路のおかげでガス嚢や外被、バルブ類の点検や操作がとてもやりやすくなったという。
ステーション35からステーション207.5までの間はこの中央通路より下には12区画にわたって燃料ガスであるブラウガスのガス嚢が、上には浮揚ガスである水素ガスのガス嚢が収納されていた。それより船首尾端は浮揚ガスのみでブラウガスのガス嚢はない。
キール通路から中央通路に上がる垂直梯子はステーション20、35、65、95、125、155、185、195にあり、ステーション2、20、50、80、110、155、170、195、207.5には中央通路から頂上まで上る垂直梯子が設けられていた。

エンジンゴンドラは全部で5基装備されていたが、ステーション125の中心線から左右5本目の縦通材位置に2基、ステーション95の中心線から左右4本目の縦通材位置に2基、ステーション50の中心線縦通材の直下に1基取り付けられていた。

垂直および水平安定板(尾翼)の後端はステーション-2、前端はステーション20であるから長さ22mもあり、その後端に方向舵、昇降舵が取り付けられていた。 各エンジンゴンドラと運転室の間にはエンジンテレグラフが設けてあり、各エンジンの始動、停止、正転/逆転や回転数はこれで指示されていた。

垂直安定板の中には応急操作台があり、運転室からの制御索に支障のあるときはここで方向舵、昇降舵の操作を行うことが出来る。

ステーション50、80、110、140の中心線頂部にに圧力調整弁、ガス排出口、手動弁などが配置されていた。

また、船体先端には繋留用のノーズコーンが取り付けられていた。

主船体内には、乗務員の居住区、貨物室、郵便物などを積み込む区画と、バラスト水、燃料タンク、予備品などが積み込まれていた。

これらは主に船体底部を縦走するキール通路の左右に配置されていた。
バラスト水や燃料タンクは自由液面の影響を避けるために直方体のタンクは使用せず、燃料タンクは複数のドラム缶状の円筒形タンクに入れられ、バラスト水は縦長の防水布製袋に入れられており、その形状からバラストホーゼと呼ばれていた。ホーゼとはドイツ語でズボンのことである。

緊急時にバラストホーゼの下端を開くと、瞬時にその袋のバラスト水が放出されるという機能面だけではなかった。広い容器に液体を半載状態にしておき、その容器を僅かでも傾けると搭載された液体が移動し、その重量が偏って傾斜を増長させる方向に働く。
水上船舶でも、不適切な設計(タンク配置)や運用(大きなタンクを半載にする)などにより荒天中に大傾斜を生じて転覆する可能性がある。
まして、常に重力と浮力のバランスで空中に浮揚し、微妙な調整で平衡を維持している飛行船では、この自由液面の影響は極限したいものなのである。
(着陸体勢で船体が傾斜すると、手空きの乗務員はバラスト代わりに通路を走らされた)

上記のほかに、潤滑油室、燃料用ガソリン、燃料用ポンプ、乗務員寝室、3直配置の運転室要員のための前部待機室があった。

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