LZ127Profile

「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

Lehmann_1

第一区間

レーマンのアコーディオン

私のキャビンではカウダ氏が寝ていた。長時間仕事をしていたので、睡眠は当然のことであった。私は、小さなアルミニュームの梯子を用心深く登って、蝶番式の折りたたみベッドに入った。私は道具をテーブルに放り投げ、-私はとても身辺整理が苦手なのである- そしてそれから邪魔にならないように枕元の灯りを点灯した。私は2~3時間、ぐっすりと夢も見ずに眠った。

その間の時間はあっという間であった。朝6時半に起きたときには、5時間も経過していた。そのとき、我々は東経90度、北緯63度に居た。経度で15度進む毎に1時間ずつ時刻が先に進んだ。その日は8月17日であった。
私の日記には次のように記されている。「誰も朝食を摂るものが居ない。電報もない。そして、テーブルにはもうランチが用意されている。」外の景観は変わっていた。

また、タイガである。我々の目の前に広がるタイガは、北極探検家ウィルキンスの話では、かつてはすべて海底であったという。その間に、岩塊がいくつかあった。ちぎれ雲が我々の後方に飛び去っていった。プロペラは、大きな丸鋸のように空気を攪拌裁断していた。飛行船は、向かい風にギシギシと音を立て、布張りの外被が僅かにはためいていた。私の船室の床の裂け目を通して、床板の桟が上空で叩かれ裂け目からツェッペリンの外被が揺れているのが見えた。

風景のあいだをツングースカ川が蛇行している。
それは、ところどころライン川ほどの川幅があった。その川の中で魚は何者にも煩わされないようであった。辺り一面見渡しても誰ひとり入植者がいないからである。昨夜は全く眠れず疲れていたので、食事のあと少し横になった。私は、不思議なほどまろやかな快い音で目が覚めた。それから、それはだんだんと一つのメロディになっていった。誰かがサロンでアコーディオンを弾いていた。
私は起き上がった。事実、サロンの一角でレーマン船長が、全く表情を変えずに真剣な顔で立派な大きい楽器を奏でていた。

レーマンにはとても音楽的素養があり、チェロを弾くことができた。彼は文学的、芸術的で教養があり、少し無愛想で、少し硬かった。独特なタイプで、飛行船指揮者らしい人格であった。彼は私の要望に応えて、マイスタージンガーの円舞曲から2~3曲を弾いた。
この大好きな曲を聴いていて、この飛行は何と奇妙なことだらけで世界を飛んでいるのだろうと、私はあらためて感じた。

暗く荒れた黒雲の幕は、まるで劇場の大きな幕のように大地までかかっていた。
濃い霧風が飛行船の周辺に沿って疾走し、数秒のあいだにその霧疾風に包まれ、その疾風はつむじ風に飲み込まれ、大地に襲いかかり、木々の先端を鍵のように曲げた。それは長くたなびく煙のように森林を覆っていた。そして、ここ、大地の500メートル上空では、ドイツのマイスタージンガーのワルツが奏でられていたのである。

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