LZ127Profile

「グラーフ・ツェッペリン」で世界周航

Sibirien_2

第一区間

ツンドラ:シベリアの湿地

ウラル山脈、このあまり険しくない、木々の生い茂った山脈を越えた。
ツンドラは延々と我々の傍を離れることはなかった。
私はまず一度深呼吸をせずには、それについて語ることができない。我々が目にしたツンドラは地獄のようであり、その光景が何千キロメートルものあいだ、われわれから離れなかったからである。それは何日も何夜も飛行船の両側で冷笑するかのように待ち受けていた。
見せかけの海藻類のあいだに見える濁った水面。
まるで原始時代に巨人が大地の上を地平線まで足踏みし、その不格好な足跡を残したかのようであった。

まわりを灰青色の雲の壁が取り囲んでいた。西方には煉瓦色の夕雲の層が見えた。太陽は照度のない薄い円板のようである。平野はすべからく薄汚れて暗い。残片と濁った沼が続く。藻は毒々しい緑青色である。少し日記を書きたくなってペンを走らせているあいだに、サロンではグラモフォンが鳴り始めた。
アイロンを当てた灰色のズボンをはいて、ケークウォークを踊っている人たちや、飛行船の郵便消印を持った手が、リースヒェンおばさん、アドルフおじさん、金髪のエラに黒髪のフリーダに送る葉書の上を、まるでぎこちない機械仕掛けのように、何度も上下しているのが見えた。隅では誰か眠っており、タイプライターはカタカタと鳴り、誰かの冗談に爆笑が起こった。

古風にまとめられた赤いカーテン、古風な壁紙や、時代を生き延びてきたガラクタの詰まったツェッペリンのこの居間や、その中にいる人間がこれほど異様に見えたことはなかった。
グラモフォンは、くどくどと感傷的な黒人のメロディを奏で、我々の足元の湿地ではメタンの泡が発生していた。

私がもし神であったなら、飛行船を数秒間地面に押しつけ、沼の水を噴き上げて窓ガラスに飛び散らせたであろう。サロンにいる人々はそれに驚き、窓ガラスに駆け寄り恐ろしさに青ざめたことであろう。

そもそも、それはこの不毛の地を走り去るための、人間の精神の異様な思いつきではなかったのか。永遠の巧みを手に入れようとする試み、厚かましさではなかったのか。もし、この間のある晩に不時着していたら、われわれの中の誰も戻って来なかったのではないかと思う。沼が音もなく我々を飲み込んでしまっていたであろう。

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